研究概要

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(1) ゼブラフィッシュを使ったペルオキシソーム病発症過程の解明。


ゼブラフィシュは淡水性の小型魚で、研究室での飼育が容易な魚です。卵が透明で体ができていく過程を顕微鏡下で観察できることから様々な器官の形成過程を最初から追うことができます。私たちはペルオキシソームを作ることができないゼブラフィッシュを作成して、ペルオキシソーム形成異常症の疾患ゼブラフィッシュを作成しました。ヒトの同病気がどのような細胞学的異常から発症に至るのかを突き止めるために、疾患ゼブラフィッシュを使って組織や器官形成におけるペルオキシソームの役割りと病気の発症過程に関する研究を進めています。

ゼブラフィッシュ

ペルオキシソーム病のゼブラフィッシュを作成する為には遺伝子編集技術用います。本疾患の原因となる遺伝子(PEX遺伝子)に特異的なDNA配列を認識して切断する酵素を作成し、その酵素をゼブラフィッシュ卵に作用させることでPEX遺伝子を人為的に破壊します。そうして作成したゼブラフィッシュを研究に用いています。現在ではCRISPRクリスパー)やTALEN(タレン)と呼ばれる遺伝子編集技術が研究の分野で多く用いられています。

TALENs

(2) 患者由来iPS細胞を用いた神経系症状の解析。


ペルオキシソーム病で症状が現れる器官の1つは脳です。特にペルオキシソーム形成異常症と呼ばれる病気ではペルオキシソームそのものができないために影響が大きく、極めて重篤な症状となります脳の機能に重要な神経細胞の階層構造の形成が不全となることが知られており、これは神経細胞の移動異常に起因すると考えられています。また、副腎白質ジストロフィーでは神経を覆う髄鞘(ミエリンとも呼ばれます)が脱落し、神経の変性が進行します。

iPS細胞のコロニー

私達の研究室では特に脳の異常に着目し、その異常が起こる詳細な過程を明らかにしたいと考えています。脳の中で症状が現れ進行していく過程を見ることは現実的には不可能です。脳の神経細胞で起こる異常を研究するために、私達はiPS細胞を利用しています。iPS細胞は万能細胞とも呼ばれますが、体を構成する脳細胞を含む様々な種類の細胞に分化する能力を秘めています。本疾患の患者さんから提供された細胞を基にiPS細胞を作成し、更にそのiPS細胞から神経細胞を作ることで、脳を構成する神経細胞がどのように病態を発症していくのかを調べています。

iPS細胞から分化した神経細胞

(3) ペルオキシソームの動態と未解明の機能に関する研究。


ペルオキソームは生物学の歴史では比較的新しく見つかった細胞内小器官です。そのためペルオキソームが細胞内で形成される過程や、詳細な機能に関してはまだ不明な点が残されています。ペルオキシソーム病患者で見られる様々な病態にはペルオキシソームに関する未知の知見が関与しているかもしれません。私達は患者さんから提供された皮膚より分離した線維芽細胞を用いて細胞内におけるペルオキシソームの動態や機能に関する研究も行っています。

ペルオキシソーム形成異常症の原因となる遺伝子は1種類ります。それぞれの遺伝子の変異より細胞内のペルオキシソームにどのような異常が起こっているのかを、抗体染色法やタイムラプス観察(長時間の高解像度顕微鏡撮影)によって調べています。また一部の変異細胞は温度感受性をもっており、温度に依存してペルオキシソームができたりできなかったりします。これらの細胞を使ってあまり知られていないヒトペルオキシソームの機能を明らかにしたいと考えています

線維芽細胞

(4) LC-MSとGC-MSを使った脂肪酸関連代謝産物の解析。


ペルオキシソームの異常が引き起こす直接の変化は細胞内の代謝の変化です。ペルオキシソーム病では原因となる遺伝子によって影響を受ける代謝産物が異なります。ペルオキシソームが全く形成されないペルオキシソーム形成異常症では代謝されるすべての物質に影響が及びますが、単独酵素欠損症では機能が欠損した酵素介在する代謝経路合成または分解される物質のみ影響が生じます。例えば副腎白質ジストロフィーX-ALDでは極長鎖脂肪酸の分解に関わるABCD1/ALDP遺伝子の変異によって体内の極長鎖脂肪酸の量が上昇します。またレフサム病では分枝脂肪酸の分解に関わる遺伝子の変異によって分枝脂肪酸であるフィタン酸が蓄積します。

一方でRCDPtype1という疾患では限られた数種類の酵素のペルオキシソームへの移動が阻害されるためプラズマローゲン合成フィタン酸の分解に影響が出ますが、極長鎖脂肪酸には影響しません。また、DBP欠損症では極長鎖脂肪酸とフィタン酸の量が顕著に上昇します。したがってペルオキシソームで代謝がおこなわれる物質の量を正確に測定することがペルオキシソーム病の診断では重要です。そこで私達は液体クロマトグラフィー質量分析装置LC-MS)やガスクロマトグラフィー質量分析装置(GC-MS)を使用してそれらの代謝産物を簡便に測定する方法の開発も行っています。さらにこれらの方法を用いて本疾患群で影響が及ぶ未知の代謝産物の探索も行っています。

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